クロストーク
歴史を伝えていくこと。
「道」を歩み続けること。
多賀城創建1300年を記念し、深谷晃祐市長と塩沼亮潤大阿闍梨が対談。「1300年」をキーワードに、多賀城の今と未来について語り合います。
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福聚山慈眼寺住職
塩沼亮潤
(大峯千日回峰行
大行満大阿闍梨) -
多賀城市長
深谷晃祐
- 深谷
- 塩沼さんは多賀城にどのような印象をお持ちですか。
- 塩沼
- 歴史的にすごく重要な場所だったということで、ずっと興味を持っていました。遠い親戚が多賀城跡に近い場所に住んでいたこともあり、子どもの頃に何度か遊びに来て高台に登った記憶もあります。また、1300年と言えば、私が修行したお寺(奈良県吉野の金峯山寺)の歴史と同じで、今回のキーワードというか数字の巡り合わせにも面白さを感じています。
- 深谷
- そうなんです。実は今回「1300年」というつながりだけを頼りに、塩沼さんに対談のラブコールを送らせていただきました(笑)。多賀城創建1300年という歴史の流れと、1300年前に開祖されたお寺で修行された塩沼さんには、何かしら共通のお考えや学ばせていただけることがあるのではという思いです。
- 塩沼
- 1300年前の多賀城はどのような様子だったのですか。
- 深谷
- 当時は町の真ん中に川が流れていて周辺には田畑や住居が広がり…という感じだったと思います。そういうことを頭の中に入れながら、政庁跡に立って思いを馳せるというのが多賀城の歴史の楽しみ方の一つと言われています。
- 塩沼
- なるほど。しかし一方で、多賀城が「こういうところだったんだ」というイメージが、あまり多賀城市外の人には伝わっていない気もするので、言葉とか文字とか、もっとイメージが具体的になるようなことをどんどん発信していくいい機会なのではないでしょうか。
- 深谷
- おっしゃる通りです。政庁があって廃寺があって、周囲に役人たちの住まいがあって…ということ以外の「多賀城の風景」もあらためて調べてみたいと思います。
- 塩沼
- 多賀城の原風景の再現みたいなことをしてみるのも面白いのではないでしょうか。
- 深谷
- 塩沼さんは多賀城にいらっしゃることはありますか?
- 塩沼
- 実は多賀城市立図書館が大好きなんですよ。このような素晴らしい複合施設がなぜ仙台市内に無いのかと、いつも羨ましく思っています。
- 深谷
- ありがとうございます!ここは『みんなの家』というコンセプトなんです。本や新聞を読む人、勉強する人、食事や会話を楽しむ人など、まるで我が家にいるように気軽な楽しみ方や寛ぎ方をしていただきたいと思っています。
- 塩沼
- 本もそうだしスターバックスもそう。私が大好きなものが揃っていて雰囲気もいい。多賀城だけずるいですよ(笑)。何度も通わせてもらっています。本当にほっと寛ぐことができる空間だと思います。大ファンです。
- 深谷
- 恐縮です。施設づくりに携わった職員たちも感激するお言葉です。
- 深谷
- あらためて『大峯千日回峰行』*で感じられたことをお教えください。
- 塩沼
- 1300年前に修験道の開祖・役行者が修行された道、その同じ道を辿ったわけですが、1300年前と変わらずほぼ一緒の道のままなんです。開祖以降これまでの修験者たちが、その道に汗や涙を落としてきたわけですから、歩くほどに自分に染み渡ってくる「伝承を受け継ぐ」といった感覚がありました。しっかりと伝わってくるものがあるんです。多賀城も創建1300年ということなので、そういう意味では、やはりその歴史から「伝わってくるものを伝えていくこと」が大事なのではないでしょうか。
- 深谷
- 壮絶な修験で得られた思いは、相当に研ぎ澄まされたものなのでしょうね。道ということで言えば、政庁跡には復元された石畳と1300年前に敷かれたままの石畳の両方があるんです。
- 塩沼
- 1300年前の石畳があるんですか。それは貴重ですね。
- 深谷
- そうなんです。だからこそ、多くの人にその石畳に立って1300年前に感じたであろう風を同じように感じて欲しいと思っています。
- 塩沼
- いいですね。そういうことはどんどん発信していきましょう。ちなみに来年(多賀城創建1300年に当たる2024年)には、何か記念イベントを行うのですか?
- 深谷
- 『多賀城創世記』という交響楽と映像と歌で綴る、新時代の創作オペラや『The winter’s tale – みちのおくの国の冬物語』という平安時代後期の東北地方を舞台にウィリアム・シェイクスピアの「冬物語」を翻案した舞台劇を上演します。これらは市民のみなさんにも演者や歌い手として入っていただくので、ワークショップも行っています。また多賀城は歌枕の地でもあるので『言葉』に関する表現についても、いろいろと面白い取り組みを行う予定です。
- 塩沼
- 言葉は大切なことですからそれは楽しみですね。
- 深谷
- 先ほどの修験道のお話ですが、修行で歩かれた険しい道に支えられたような思いはありましたか?
- 塩沼
- 大自然というのは時として心の支えになりますが、同じ場所でも今日は晴天だったのに翌日は悪天候になる等、その変化で命を脅かすこともあります。厳しさと優しさの表裏一体なんです。だからこそ修行で一番大事なことは無理をしないこと。勇気だけで進もうと思ったら命がいくつあっても足りません。そもそも理に適わないことが「無理」ですから、無理は絶対にしないことが大切です。その上で、大自然は常に自分を包み込んでくれていると感じる。それが一番の支えでした。
- 深谷
- よくわかります。1300年前と同じように豊かな自然を感じてもらうため、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)を植えようといったワークショップも行っています。
- 塩沼
- やはり環境は大事ですよ。私の慈眼寺では、今日のようにたとえ私が不在であっても訪れた方に気持ちよく感じていただくため、植栽や清掃など、環境づくりには常日頃から一切手を抜かないようにしています。「場所をつくる」「維持していく」。つくることと続けること、どちらも大事です。
- 深谷
- ありがとうございます。まちづくりにもつながるお言葉だと思います。『大峯千日回峰行』はもちろんですが、今のお話の中では「続けること」が難しいですね。
- 塩沼
- 単純ですが、これは同じことをコツコツとやり続けることが一番だと思います。修行は同じことを続けていくのですが、つまるところ「ちゃんとするか/しないか」の二つに一つで、これは人生と同じです。面倒くさく感じるかもしれませんが「ちゃんとする」を繰り返し続けていくことが近道であり、結果的に必ず大きな力になるはずです。
- 深谷
- 1300年という歴史は、ちゃんと続けてきた先人たちが築いてくれた大切な価値ですから、今のお言葉をますます胸に刻んで、次代にバトンを渡していきたいと思います。
- 塩沼
- 市長はまだお若いので、小さなことでもいいので多賀城のためになることをどんどんコツコツと続けてほしいですね。市民のみなさんも楽しくなるでしょうし、それが唯一無二の市長のキャラクターを育み、これからも歴史を重ねていく「道」になると思います。
- 深谷
- 「道」ですね。今日はためになるお話をありがとうございました。
(聞き手/渡辺祥子・構成/鎌田高広)
*『大峯千日回峰行』(おおみねせんにちかいほうぎょう)
奈良県吉野山にある金峯山寺蔵王堂から24㎞先にある山上ヶ岳頂上にある大峯山寺本堂まで、標高差1355mある山道を往復48㎞、1000日間歩き続ける修行。毎年5月3日から9月3日まで年間4ヵ月を行の期間と定めるので、9年の歳月がかかる。1991年5月3日より述べ4万8000キロを歩き、1999年9月3日に成満。
【その他の塩沼亮潤大阿闍梨の満行】
『四無行』(しむぎょう)
断食、断水、不眠、不臥(横にならない)を九日間続ける修行。大変危険な行で、無事生きて行を終える確率が50%といわれている。2000年9月28日から10月6日にかけて成満。
『八千枚大護摩供』(はっせんまいだいごまく)
100日間五穀(米、大麦、小麦、小豆、大豆)と塩を断つ前行の後、24時間一昼夜飲まず、食べず、寝ず、横にならず、八千枚の護摩を焚き続ける行。2006年3月15日に成満。